ヤマダイスキーの旅日記

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中国、インド、イランが経済協力圏を構築したらどうなるか

 

※大学の成績などとはまったく関係のないあくまで趣味としてのレポートです。甘い部分がいくつもありますがご容赦ください。
※この構想は完全なるフィクションです。今のところこの動きはないようです。

 

要旨

中国、インド、イランは地理的に近く、この3ヶ国が経済協力圏を構築した場合にどのような事態が起きるのか想定してみた。そもそも現時点でそれぞれ2ヶ国間の国際関係はおおむね良好であり、関税の撤廃も含めた貿易協定やインフラ整備など経済協力の流れもある。今後この3ヶ国で経済協力圏が形成された場合、その周辺国も様々なメリット・デメリットを受けることになるだろう。

 

1、前提知識など

アメリカとイランは核合意で揉めており、アメリカと中国はファーウェイ問題で揉めている。アメリカとインドは友好国と言われるが、インドはイランや中国と敵対しているわけではない。

「日本・中国・トルコ・韓国・インドは、各国に対してイラン産石油の輸入を禁止させようとするアメリカの方針に異を唱えている。」

http://parstoday.com/ja/news/iran-i52823

「欧州も核合意を継続する意向。」

欧州はイラン核合意を堅持=ドイツ外相 - ロイターニュース - 国際:朝日新聞デジタル

「そもそもイランの核合意とは、イランが核開発を中止する見返りとして各国が経済制裁を解除するもの。」

アメリカのイラン核合意離脱って、結局どういうこと? | POTETO Media

実際にこの3ヶ国の経済協力圏を構想とした文献は見当たらなかったため、これ以降は「アジア経済協力圏(AEC)」と呼称する。

 

2、2国間の国際関係


2.1、中国とインド

この2カ国で人口の世界1位を争っているわけだが、カシミール地方を巡って緊張状態が続いており、1962年には直接衝突したこともある。

 

そもそも経済規模では中国がインドを圧倒していて、中国製の工業製品が貿易摩擦を引き起こしている。中国製の電子機器にスパイウェアが搭載されている疑惑などもあったが、そのつどインド政府はセーフガードやアンチダンピング措置を講じてきた。

 

また中国は一帯一路の一環として中国・パキスタン経済回廊(CPEC)を掲げており、インドと仲の悪いパキスタンに多額の支援をしている。

 

逆にインドも、ダライラマ14世の亡命受け入れなど中国への対抗措置を取っており、またインドの核開発も中国にとって脅威といえる。

 

このような問題を抱えながらも、インドにとって中国は最大の貿易相手国であり、中国企業にとっても巨大で成長率の高いインド市場は魅力的である。

 “情報機器大手ファーウェイ(華為技術)がインド・バンガロールに中国以外では世界最大となる開発センターを開設した。世界最大の鉄道車両メーカーで、ムンバイ・メトロ(都市高速鉄道)の車両納入の実績もある中国中車(CRRC)は、西部マハラシュトラ州への工場建設を表明してインド政府を喜ばせた。家電大手のハイアール(海爾集団)は11月、同州にある工場の拡張投資を終え、主力の洗濯機だけでなくエアコンや液晶テレビ用パネルなどに生産品種を広げる計画。”

 

“インドでは2017年末の時点で1年に2億5000万台以上の携帯端末が売れていて、その半分以上は中国製である。そもそも携帯電話の基地局を設営しているのはほとんどが中国企業である。”

中国とインド「嫌い合う二大国」が本気でケンカしない理由(山田 剛) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)

 

インドの第2次5ヶ年計画において、最重要課題はアメリカとの関係ではなく中国との関係、特に経済協力である。インドの周辺国家も中国との関係性を慎重に見極めようとしている。

Modi 2.0 and India’s Complex Relationship With China | The Diplomat

 

2.2、中国とイラン

中国政府とイラン政府は、原子力分野や貿易分野での協力を強化することで合意した。

中国とイラン、協力強化で合意 習主席が大統領らと会談 - ロイター

 

“中国は今まであまり積極的に中東に関与してこなかったが、米国の影響力が低下する中、そのプレゼンスを高めようとしている。中国外務省は「わが国は欧米諸国とは異なり、中東で紛争に直接関与したことがない。それだけに、公平な和平交渉が可能となる」と発言し、中立的な立場を取ろうとしている。”

中東でプレゼンスを高める中国、「一帯一路」構想実現へ | Platnews

 

(全然読めていないですがこんなレポートもありました)

https://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/occasional_papers/2012/RAND_OP351.pdf

 

2.3、インドとイラン

インドはアメリカとの関係を強化しつつも、イランとの長年のつきあいも健在であり、両国とのバランスの取り方に苦労している。

A Fine Balance: India Walks a Tightrope between Iran and the United States - ScienceDirect

 

インドは原油の12%をイランから輸入していて、インドの国営精油所もイラン原油仕様になっており、エネルギー面での依存度が高い。また中国の一帯一路に対抗してイラン、トルクメニスタンカザフスタン、ロシアを鉄道で結ぶ「南北回廊」の計画もある。さらにインド国内のシーア派人口はイランに次いで世界2位である。

対イラン制裁に消極的なインド 米国への反論 WEDGE Infinity(ウェッジ)

 

インドとイランは貿易協定(PTA)により、インド産の農産物やイラン産の石油・肥料・薬品にはお互いに関税をかけない、もしくは大幅に減額することになった。

India Iran trade: India, Iran may hold next round of negotiations for trade agreement in May

 

3、3ヶ国を合計したデータ

f:id:wonderfulsolution:20190613013705p:plain

(世界銀行) World Bank Open Data | Data
(外務省) 欧州連合(EU) 概況 | 外務省
(外務省) ASEAN(東南アジア諸国連合)概況 | 外務省

NAFTA - North American Free Trade Agreement 2019 | countryeconomy.com

 

人口とGDPだけで経済圏の規模を正確に比較することはできないが、AECは他の地域に比べて人口が突出しており、総GDPEUに匹敵するほどの規模である。

なお中国、インド、イラン、EUのデータは2017年、NAFTAのデータについては年が不明、ASEANは2016年。

 

4、想定される障壁

2国間ですでに抱えている問題については割愛する。

4.1、言語

中国では中国語(北京語/普通語)、インドではヒンディー語と英語、イランではペルシャ語アラビア語が主に使われている。現時点ではビジネス分野で問題ないレベルにお互いが英語を話せる程度かもしれないが、今後翻訳機器の発達により言語の壁は大幅に取り払われるだろう。逆に言語の壁があるからこそ「どの言語でも使える/言語を必要としない製品・システム」が生まれる可能性がある。

 

4.2、宗教

中国は共産党政権のため宗教に寛容ではない。インドではヒンドゥー教。イランはイスラム教のシーア派が国民の多数を占めている。こちらも「お互いの宗教/無宗教を認める」というのは最低ラインとして、「どの宗教/無宗教でも受け入れられる製品・システム」を目指すべきかもしれない。

 

4.3、スケールの違い

中国は人口が10億人を超え、GDPも12兆ドルを超えている。インドも人口は10億人を超えてはいるが、経済的にはまだ発展途上にある。イランは人口が8千万人ほどで、経済規模も他の2国に比べると小さい。EUではイタリアやギリシャの抱える債務をドイツやイギリスが負担するような構図になってしまったが、AEUもこの域内の不均衡を抱えそうであり、その対応が必要となる。

 

5、想定されるメリット

一般的に「先進国」といわれる北米やヨーロッパに対抗する経済圏としての価値は高い。特にBRICsと呼ばれる5ヶ国のうち、インドと中国が関税撤廃などの貿易協定を結ぶことは、その経済規模と成長率を考えるとインパクトが大きい。

また対アメリカを共通項とする中国とイランは、軍事や通信分野などで協力してもおかしくない。比較的ドメスティックな成長をしてきた中国企業にとって、インドやイランの市場は開放されれば非常に魅力的であろう。

6、周辺地域への影響

具体的な周辺地域とは、ミャンマーブータン、ネパール、パキスタンアフガニスタン、そして中央アジア諸国を指す。日本、韓国、ロシア、カフカス諸国、中近東、東南アジア、スリランカなども広い範囲では周辺地域と言える。この3ヶ国の協力体制ができれば、陸路での物流、ひいてはそのインフラ整備がより活発になる。

 

すでにパキスタンについては中国の一帯一路、インドの南北回廊の現場となっており、多額の投資がなされている。またアフガニスタンもインドとイランの中継地点になりうるため。治安維持の強化があるかもしれない。実際にこの経済圏にどこまで関与するかは各国の選択になるが、巨大な供給源と巨大な市場が開かれることになる。

 

もちろんこれは単純に朗報とはいえず、自国の小さな市場で完結させているところを突然巨大な経済システムが飲み込む、というような事態も起こりうる。

 

そもそもこの経済圏はおもに中国、インド、イランの3ヶ国のメリットを重視して設計されたものであり、いくつかの周辺国にとっては脅威になるかもしれない。